健診で肝臓が悪いといわれたら🍒
当院には、毎日市の特定健診を受診される方が来院されています。また、秋のこの時期は、職場でも健康診断がおこなわれるところが多いようです。
意外と多くの方が、健診で肝臓の数値の異常(肝障害)を指摘されています。「何も症状がないのに」とか「お酒も飲まないのになぜだろう」と、不安な表情で健診結果を持参して来院される方も、この時期多くなります。
今回は、肝障害のある患者さんが来院されたとき、肝臓専門医でもある私が、どのように考えて、肝障害の患者さんを診させていただいているかということをご紹介させていただきます。あまり専門的に難しくならないように、また詳しいことはWeb上にたくさん情報がありますのでそちらをみていただくとして、ここは、お気軽に読み進めてください。
無症状の患者さんが、健診でAST、ALT、γGTPの軽度な異常を指摘されて来院されたとします。
肝障害は、急性か、慢性か?
急性肝炎では、発熱・倦怠感・嘔吐などの強い自覚症状を示すことが多く、ASTやALTも概ね100~200以上、場合によっては1000を超えるような高度な異常値を示します。自覚症状のほとんどない急性肝障害もありますので、総合的に判断します。
健診で異常を指摘されてこられる場合、AST・ALTは高くても100を少し超えるぐらいです。この程度の肝障害で、症状がほとんどない場合は、慢性肝障害の可能性が高いと考え、原因精査を進めてゆきます。以下、慢性肝障害の場合を想定してすすめてみます。
飲酒歴は? 肥満は? 体重は短期間で増えていないか?
一般に、アルコール摂取量が平均1日60g(日本酒換算で3合)以上、5年以上続けば過剰の飲酒とされ、過剰飲酒者が肝障害を示せば、アルコール性肝障害を考えます。また、最近は、肥満を背景に脂肪肝を呈する方が、飲酒歴がなくてもアルコール性肝障害でみられる肝線維化を示す場合があることが明らかとなり、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)といいます。肥満の場合は、過剰飲酒に至らない飲酒量でも肝障害をきたしやすいともいわれます。また高度な肥満でなくても、短期間で顕著に体重が増えたときは脂肪肝をしめすことがあります。このような、飲酒や肥満といった、生活習慣が原因となる慢性肝障害は頻度も高いので、最も注意すべきです。
ウイルス性慢性肝炎はどうか
肝炎ウイルスで、慢性肝炎の原因となるのは、B型肝炎ウイルス(HBV)とC型肝炎ウイルス(HCV)の2種類です。HBV感染者にのみ併存してみられるD型肝炎ウイルスというのもありますが、極めてまれな場合なので通常は考える必要はありません。
HBVやHCV感染があっても、無症候性キャリアであったり慢性肝炎であったり、肝硬変まで進んでいても非代償期では無症状です。脂肪肝と併存していることも当然ありますので、慢性肝障害の時には、HBs抗原、HCV抗体という感染マーカーは必ず調べて確認します。
自己免疫性肝疾患はどうか
慢性肝疾患の原因として、自己免疫性肝疾患があります。本来、ウイルスや細菌等の疾患を引きおこす他者の侵入に対して、それと戦い生体を防御する「免疫」が、自身の臓器等を標的にして作用してしまうことを「自己免疫」といいます。肝細胞が標的となる「自己免疫性肝炎(AIH)」と、細胆管細胞が標的となる「原発性胆汁性胆管炎(PBC)」が、肝臓では代表的な自己免疫性疾患です。AIHでは抗核抗体が強陽性になり、PBCでは抗ミトコンドリアM2抗体が陽性になりますので、それらのマーカーを確認して診断の端緒とします。
薬物性肝障害はどうか
以上のように検査を進めてきて、脂肪肝、ウイルス性肝炎、自己免疫性肝疾患のいずれでもない、あるいはそれだけでは説明のつかない肝機能障害の推移を認めた時などは、薬物が関与していないかを慎重に検討します。
肝障害をきたし始める以前に、新たに開始された薬物がないかを、当院のもの、他院のもの、自主的に摂取しているサプリメントまで含めて詳細に調べます。そして、原因の可能性のある薬物の内服を休薬して、肝障害が改善するかどうかを経過をみながら判断します。
画像診断や、肝線維化マーカーの検討
以上のような肝障害の原因検索を、段階を踏んで進めながら、当院では画像診断として腹部超音波検査を必ず実施します。これにより、脂肪肝の有無やその大まかな進行度、肝硬変のような進行した線維化をきたしていないかの判断をします。
ウイルス性慢性肝炎、NASH、肝硬変には肝細胞癌が併発していないかどうかのスクリーニングも行います。
胆石や総胆管拡張の有無を観察し、肝障害の原因として胆道系疾患が関与していないかを概観します。
腹部超音波検査のみでは不十分と判断された場合は、ファイブロスキャン(肝臓の脂肪化や線維化をさらに詳しく調べるための検査)、CT・MRI等の実施のため、北里大学メディカルセンターなどの施設と連携をとるようにしています。
肝線維化に関しては、血液検査で肝線維化マーカーと呼ばれるいくつかの検査があります。当院では、主にMac-2結合蛋白(M2BP)糖鎖修飾異性体(M2BPGi)という検査で評価しています。このマーカーは肝線維化に関して非慢性肝炎、慢性肝炎、肝硬変と、ある程度の半定量的判定が可能であることと、高値の時には肝発癌の予測因子としても有用である点が特徴とされています。
以上のように、慢性肝疾患に関して、その原因と進行度を何回かの通院・検査をしていただくなかで適切に判断するよう努めています。必要な場合は北里大学メディカルセンターなどと緊密に連携し、より的確な診断につながるよう常に配慮しています。
健診で、肝障害を指摘されて心配をしておられたら、是非一度当院に相談してみてください。
PS) ここでご紹介いたしましたそれぞれの疾患の詳細については、また別の機会にお話ししたいと思っています。
さくらんぼ通信 第 7 号